妊娠したなんて、うそ。わたしは妊娠なんてできない身体だから。ただの、もうそう。三滝くんが東京に行って頭のおかしくなったわたしは、妄想を膨らませてはそれを現実だと思い込むということを繰り返していた。ふとした拍子に現実に引き戻されて、悲しみに暮れて泣き喚き、泣き疲れて寝て、目覚めてからはその現実が夢であったと勘違いし、妄想の続きを、虚妄の世界を生きる。わたしが妊娠したと騒ぎだしてからも、その前からも、三滝くんはわたしの妄想に気付いていた。気付きながらわたしの妄想に付き合ってくれていたのでした。わたしが先日マンションの階段で転んだとき、お腹を強く打った。妄想中のわたしは病院でひどく気が動転し、また泣き喚いた。わたしのお腹の中は空っぽだと告げられたからだ。すぐに三滝くんが東京からやってきて、わたしを家に連れ帰った。三滝くんは、泣きながらわたしにすべてはわたしの妄想であったのだと話した。わたしは呆然と、涙を流すこともなく、ただただ三滝くんの話を聞いていた。 本当は、わたし、知ってた。自分のお腹が空っぽなことも、三滝くんと呼んでいる男の子が、三滝くんじゃないことも。ただ、いつから三滝が三滝じゃなくなったのかは、分からない。三滝じゃないこの男の人は、誰なのだろう。 わたしの分かったことは、三滝という存在は代替可能であったということ。しあわせは、代替可能であるということ。 ああ、頭がわれそう。